幕末の恋と花のかおり【完】
そして、山崎は続けた。
「きっと、枡屋が捕縛されたことを長州は黙っていないでしょう。会合は今日の夜にでも開かれると予想されます。」
「四国屋と池田屋。どちらで会合が開かれると思いますか?」
それから山南さんが問うと、みんなは黙って考えていた。
そこで、一番最初に口を開いたのはやっぱり土方さんだった。
「普段から会合に使われているのは、池田屋だ。だったら普段と違うところを会合に使うだろう。
おれは四国屋だと思う。」
永倉はその意見に反対した。
「でもよ、普段から使ってる池田屋の可能性も捨てきれないぜ。
それに常連の場所のほうが顔も知っていて、話しやすいだろ?」
「それもそうだな」と副長室の中の人間は再び考え始めた。
「ならば、隊をトシの隊と自分の隊の二つに分けよう。」
近藤さんの言葉に、全員が驚いて顔をあげる。
「自分も四国屋の可能性の方が高いと思うが、池田屋の可能性もないとは言えない。
山崎君、動ける隊士は何人だ?」
「それが...。三十五人しか......。」
山崎の顔は不安気に曇っていた。しかし、近藤はその不安を振り払うかのように優しい笑みを浮かべる。
「トシ、お前は二十四人連れていってくれ。
俺は十一人で行く。」
「近藤さん...! それはいくらなんでも少なすぎだろう! 危険じゃねえか!」
土方がそう言っても近藤さんの顔から笑顔が消えることはない。
「大丈夫だ、トシ。
人数が少ない分、腕の立つものを連れていこうと思う。
総司、平助、永倉くん、武田くん、それと松田くん、ついてきてもらえるかい?」
武田とは、五番隊組長兼文学師範で、男色疑惑があるが、剣の腕は確かな人だ。
「「はい!」」
名前を呼ばれた沖田、平助、永倉、武田と花織は返事をした。