幕末の恋と花のかおり【完】
しばらく歩くと、その美青年は立ち止まった。
無愛想に、入るぞと花織のことをみてから、部屋をの扉をあけた。
そして、ふたりは畳を踏んだ。
そこには、男の人が10人ほど、円を作って座っていた。歳は全員二十代といったところである。
ざわざわと話していたのだが、彼らは突然静かになり、一斉に視線が花織へ向いた。
「それでは」
上座の人が話す。
「君のことを教えて貰ってもいいかな?」
見た目と反して、ほんわかとした話し方。
心がどこかほっとする。
「はい。 私は松田花織といいます。十六歳です。」
優しそうな男の人は目を細めた。笑ったのだ。
「先に私の名前を教えるべきだったな。すまない」
花織は首を横に振る。
「私は、新選組局長、近藤勇だ。」
「よろしくお願いします」
頭を下げながら気がついた。
近藤勇という名前、どこかで見たことのある美青年の顔。
……そして、何よりみんな和服なのだ。
どこかおかしい。
コスプレ集団だったとしたら、そこまで自然なはずがない。
それに、私は階段から落ちたはずだ。しかし、どこも痛くも痒くもない。
こうなると思いつくのは
①死後の世界
②夢を見ている
③……タイムスリップ
この三つ。
できれば②であることを願いたいが、先ほど、喧嘩をした時、確かに痛みを感じた。
①だとしたら嫌だから、この可能性は消去する。
残るは、③のタイムスリップ。
SF映画のようなはなしだが、本当にあるのだろうか。