幕末の恋と花のかおり【完】


花織には覚悟していたような痛みはなく、そのかわりに手には慣れない気色悪い感触がした。


そして花織は悟った。一つの命を奪ったと。



「花織…ちゃん……。」



後ろから声がした。弱々しいその声は沖田のものではなかった。それならば、吉田のものだろう。


振り返るとやはり吉田だった。




「なんですか……?」



恐る恐る聞くと、意外な答えが返ってきた。



「……僕さ、冗談とかじゃなくて本気で、花織ちゃんが好きだったんだ……。
多分……島原で君を見る前から新選組の隊士の姿をした君を初めて見た時から惚れてたんだろう……」


彼には花織が男装をしてることがすぐにわかったそうだ。そして彼は微笑んだ。一目惚れは初めてなんだ、と。


「君に殺されるなら、……本望だよ」


なぜだか、花織は目頭が熱くなった。



「一つ……、お願いがある」



そう呟く彼は声こそ変わっていないが、戦う前とは違い、ものすごく弱々しかった。



「僕が死ぬまで、君を抱きしめさせて欲しい……。」



彼は意外にもいままで見たことのないくらい優しく微笑んでいた。






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