幕末の恋と花のかおり【完】
考えてみれば、彼ーーーー吉田栄太郎は"生きていたら総理大臣になっていたかもしれないほど優秀"と平成に伝えられるような人だ。そんな人の未来を奪ったのだ。
「僕……君に会えて良かったと思う。
松陰先生が処刑されてからあんなに恨んだ幕府側の人間をまさか好きになるなんて思ってもいなかったし、叶わない恋だったけど……
人を愛する気持ちを思い出せて、良かったと思うよ……。」
そう言った彼の笑顔はとても人間らしい、優しい笑顔だった。
花織は思った。私が彼を斬ったのに、こんな私を彼は愛してくれている。とてもありがたいことだ。
「栄太郎さん。私を好きになってくれてありがとう……。」
花織のその言葉を聞き、吉田は一度ほほ笑みを浮かべると、目を閉じた。
そして、息を吸う音が消える。花織は吉田が息を引き取ったことを悟った。