幕末の恋と花のかおり【完】
準決勝のあと、コーチと顧問の方をちらっと見ると、凄い血相をしていた。
そして、決勝戦。
「正面に、礼」
国旗の方にお辞儀をする。
拍手が響く。
「お互いに礼」
相手と向き合って礼をする。
息を呑む瞬間。
「はじめ!」
体育館に溢れんばかりの拍手の音が響いて揺れた。
「余裕だろ」
コーチの言葉。
顧問の表情。
それらを思い出してしまったばかりに。
声が出ない。
足が思うように動いてくれない。
(どうしよう)
負けちゃったらどうしよう。
みんな私の試合を見に来てくれてるのに。
どうしよう。
考えているうちにも、間合いは詰められて、あっという間に中心を取られる。
(打たれる)
とっさに右手を上げて面を防御しようとした。
その刹那。
「胴〜〜〜〜〜!」
胴を叩かれる感触がした。
審判全員の旗が相手側に上がる。
一本取られてしまった。
「二本目!」
受信の力強い号令を聞いて、さらに怖さはます。
一本取られたら終わりだ。
思えば思うほど足は前に進まない。
どんどん後ろに下がってしまう。
試合のコートから二回出てしまった。
反則が二回、つまり一本だ。
そして、私は胴一本に反則で優勝を逃してしまった。