幕末の恋と花のかおり【完】


「ほんまになにやってるんやろ、自分......。」


井戸がみえるところまで達して聞こえたその弱々しい関西弁は、本当にそうかと耳を疑ったが、紛れもなく、普段は陽気な彼のものだった。

監察方として、隊士になるべく見られてはいけない山崎が屯所内でこんなにも人の目につくようなところにいるのも珍しいが、それ以上に声がこんなにも弱々しいことに驚いた。


「山崎さん......」

花織は呟いた。


その声に気がついたのか、彼はこちらを振り返ると

「花織は、早く寝え。」

と笑った。しかし、その笑顔はいつもの無邪気な笑顔ではなかった。


無理にでも笑おうとする山崎。

そんな彼のことを思う花織。

そんな山崎の背中と花織の間には沈黙が流れた。

そして花織は山崎の背中を抱きしめた。



そして、呟いた。
「一人じゃないです。
山崎さんは......。」



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