如何にして、コレに至るか
使えない。
思えど、“いざとなったら”の言葉が過ぎる。
人の気配がしない家。ここまで移動して、“誰か”も、私があの部屋から逃げ出しているとも気付かないとなれば、一階ではなく二階にいるのかもしれない。
ひょっとしたら、今は深夜で、寝ているのか。
「だったら、いいのに」
これも物見遊山かと、考えを改める。
とは言え、やることは変わらなかった。
ここから、出る。
こんなところにいたくない。
毒ともなりそうな匂いに吐き気を覚えつつ、今いる空間を見渡す。
「こっちは」
開けっ放しの引き戸から、洗濯機が見えた。
白が基調の脱衣場の奥には浴室。ダイニングを通じなければ、浴室に行けない間取りらしい。
浴室の窓も見たが、型硝子ごしでも、侵入防止用の格子があるのは分かる。
こっちも無理かと、肩から力が抜けていくようだった。
「次……」
迷路に入った人は、こんな気持ちになるのだろうか。出口が見えない不安。そもそも、出口があるのかすらも疑わしい。
でも、立ち止まってはいられない。そこの曲がり角を曲がれば、化け物に出会うかもしれないが、この場所から抜け出せなければどのみち襲われる。
最初から、私に優位なことなんてない。
私にあるのは、“いつ襲われるか”だけ。
窮鼠猫を噛むで、ナイフを持てども、化け物が私の思う奴だとすれば、正直心持たない。
ネズミがネコを最後に噛んだところで、それが何だと言うんだ。かすり傷つけられ、激怒したネコにより無残にやられてしまうだけだろう。
逃げるしかない。逃げ場所がなくても、逃げなきゃ。
そうして、次。
入ってきた時と同じ要領で、丸まった景色の廊下を覗く。
真横の空気清浄機がうるさくて、音には頼れないけど、視認する分には誰もいない。
綱渡りめいた心境での行動は、時間がかかる。廊下に出るまで、時間と共に、寿命さえも縮まった気持ちとなった。
扉の開閉音がやけに響くと思うのは当人だけか。“誰か”がやって来ることはない。
一階、最後の部屋に向かう。
最初にいた部屋の隣にあった扉。
造りとしては同じだと思う。
耳を澄まし、レバー式のノブを回す。
回しながら、こちらの部屋には鍵がついていないのかと疑問が湧いた。
難なく空いた扉。しかして、部屋の全貌は分からない。
暗かった。電気が点いていない。
廊下から差し込む光でおぼろげながら見えたのは、ベッドだった。
誰もいないと確認し、壁際に手を添える。
どの家だって、部屋の電気のスイッチは、入ってすぐ脇の壁に備え付けられているだろう。部屋の電気が、玄関先のスイッチを押さなければ点かないとなれば、とんだ欠陥住宅だ。
予想は正しく。スイッチを指先で認識する。点けた。それと同時に中に入る。
思ったよりも、電気のオンオフーーカチリとした音が響いた気がしたからだった。
上がる心拍を抑える。
息をし、誰もいない部屋ーーその全貌を見て、呆けてしまった。