如何にして、コレに至るか

「マネキン?」

疑問符つけても、顔がない等身大の人形はそうとしか形容出来ない。

店頭のディスプレイでよく目にするそれ。
この部屋にあるマネキンも、ディスプレイするかのようにポーズを取り、服を着ていた。

白のブラウスに、栗色のコート。
紅茶色のベロア素材のスカート。黒いタイツと。

「っっ!」

私と、同じ格好をしたマネキンが、こちらを見ている。

姿見でも見ているみたいだった。
まったく同じ服装に、身長もまた同じに思えた。

背比べをするほど、近づく勇気がない。
足の力が抜け、その場に膝をつく。

猫の足跡の絨毯を手のひらで踏む。
私のアパートにある物と同じと思ったが、肌触りがまったく違う。

使われた痕跡がない。
物は使っていれば劣化する。絨毯なら毛が潰れるし、布団だってシワがつく。

それらがない新品同様の物たちで仕上げられたこの世界。

私がいて、私を真似した物が置かれているこの空間。


私の生活そのものを真似た部屋が、ここだった。

どうやって揃えたのか、考えたくもない。


ゴミ袋の件から、この家の主はストーカー以上に常軌を逸していると分かっていたのに。

どんどんと、その予想を上回る。

いったい、いつから、あいつは私に付きまとっていたのだろう。

同じ物を揃えるために、入れた覚えのない私の部屋まで調べ上げ、こうして、同じ服を着せたマネキンも用意する。

何がしたいんだ。何で、こんなことをする。


どうして、こんなことが出来る。


知らぬ間に、自分のことが露わにされていた。知らないところで、自分のことを弄ばれていた。

膝と手をついたまま、移動する。
窓はあってもシャッターが閉まっているため脱出は無理だと一目瞭然。向かった先はチェスト。

五段の引き出しからなる白いチェスト。低い場所から開けた。当たり前のように、私の衣服が入っている。

真新しい洋服が、全て几帳面に畳まれている。

一度も袖を通されていない服は、紛れもなく私も着ている物だ。

下から二段目。
ベッドやコタツの位置まで模倣するなら、チェストの中さえも同じ。

見たくはなかった。でも、見てしまった。

下着。上下セットだったり、不揃いだったり。ここまで、徹底的に真似するというのか。

八つ当たりで、下着や服を掴み、投げる。

布切れで音はしない。だから、引き出し全ての物を投げた。

頭をかきむしる。鳥肌が、脳に直接出来たかのような錯覚。

発狂したい。いっそ、こんなところ燃やしてしまいたい。

思うも、それを諫めるのはやはり自分自身だった。

「落ち着け、落ち着け。いつも通り、冷静に……」

『でも、三葉のそれは、特段臆病だから出来た防衛本能に近いと思うよ』

思い出が再生される。
彼との会話。それで幾分か落ち着くようだった。

本当は、どうしようもなく、臆病。

小さい頃から、大人っぽい。大きくなったら、冷たい人。周りからの評価は、いつもそんなもの。

私とて、それを否定しない。自他共に、私の性格は色にすれば青。冷たい色だと認めている。

『臆病者で、優しすぎる。当たり前じゃなくなった優しさを、何気なくしてしまう無自覚さは惹かれるよ。だからこそ』

あんな奴にも、目を付けられるんだ。

「宮本さん」

出した声は、酷く水分を含んでいた。

鼻をすする。無造作に袖口で涙を拭い、床に散乱した衣服を踏みつける。

ここも外れ。次に行かなければ。

泣き喚いて、我を忘れて発狂し、愚かな真似をする前に出なければ。

こんな私でも愛して、認めてくれる彼の安否も気になる。彼にも付きまとっていたと言うし、何もないと言うには楽観的過ぎる。

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