如何にして、コレに至るか
「ぅ、あああ゛、くそがぁっ!」
声だけでも、人を殺すかのような怒りを聞いた。
心臓が止まった。比喩なしに。
されども、声だけで人は死ねないため、再開した鼓動は先ほどよりも早く音を立てる。
男の声だった。
聞いたこともない怒声。
奇声を上げ、壁を叩き、ガラスの割れる音がした。
窓には目張りがあったはず。ガラステーブルを壁に打ち付けたのか。
何にせよ、怒り狂うに相応しい暴君が隣の部屋にいる。
私がいないと、逃げたと思って発狂している。
あれに捕まれば、殺されるでは済まないだろう。
怒りという怒りをぶつけられ、捌け口にされ、それこそ、こちらが殺して下さいと懇願するかのような事態が。
「ふっ、うぅ」
見つかるわけにはいかない。けど、隣まで来ている。逃げたとバレた。探される。見つかるまで探される捕まえるまで追いかけられる逃げ切れない無理だ、もう、ダメ、やだやだ、来ないで来ないで来ないでよ!
「っー!」
死ななくても、走馬灯めいたものが見える。
恐怖が行き過ぎ、宮本さんとの思い出ばかりが再生された。
駄目だと諦めた瞬間だった。
隣の男が、廊下を歩いたから。