如何にして、コレに至るか
一部屋一部屋虱潰しに探すだろう。
順当で言えば、一番手近な隣の部屋。
私がいる場所に来るはず。
どうすることも出来ないと思っていれば、足音は部屋の前を通り過ぎた。
見なくとも力任せに開けたと分かる音から、ダイニングキッチンへと行ったと分かった。
そちらに行ったと思ったのだろうか。
キッチンで、また物を倒したり、壁を叩く音がする。
そうして、浴室特有のくぐもって聞こえる音がし、静かになった。
「……」
静かだった。嵐が通り去ったかのように。
ダイニングキッチンに行ったきり、足音が戻ってくることはない。
不自然な無音には、より警戒心がささくれ立った。
見えない向こう側。足音を殺して、部屋の前まで来ているかもしれない。
息を零す。知らずと止めていた呼吸も、いい加減限界のようだった。体を強ばらせたままの呼吸は、骨を軋ませるようだ。薄氷にひびでも入るかのように、ぴきぴきと不快感を与えてくる。
それが、どれほど続いたか。
数分にせよ、体感時間は何十分とした時を漂っている。
一向の無音。部屋の前で、私が出てくるのを待っていると、サスペンスさながらの展開を想像したが、あまりにも長すぎた。
ただでさえ、恐怖で滅入った精神。忍耐力が低下し、今の状況が耐えきれなかった。
見えない向こう側、扉をただひたすら凝視する行為。処刑前の罪人の気持ちと言うが、私の手足に枷(かせ)はない。
逃げられる。
「にげ、な、きゃ……」
涙が伝い、乾いた頬。その上から、また涙が流れる。
拭う。今ここには、私しかいないのだから、自分一人で何とかしなければならない。
立ち上がった。初めて二本足を使ったような気さえもするほど、力が入らなかった。
転ぶ手前で踏みとどまる。
宮本さん、宮本さん。
そんな、己を奮い立たせる暗示として、愛しい人の名前を呼ぶ。
ポケットのナイフを握った。
使えるかどうかは、その時にならなければ分からない。
その時ーーこの、扉の向こうに男がいた時にしか。
「っ!」