如何にして、コレに至るか
この家で、初めて扉を力いっぱい開けた瞬間だった。
大仰に開けた向こう側。
ナイフを向けた先にはーー肩すかしの光景がある。
「いな、い」
そうと判断するのに、またしばらくかかった。
誰もいなかった。
無音は、無音。男がいたことさえも嘘のようだと思えど、隣の部屋ーー開けっ放しの扉から見た部屋の惨状を目にして、肩から震え上がった。
壁という壁に凹み。窓の下には、割れたガラステーブル。その破片を、ソファーに突き立てと、人間ではなく化け物でもいたかのような惨状となっていた。
この怒りが、物ではなく、人に向けられたらどうなると言うのだろう。
ダイニングに目を向ける。
男は開けたものを閉める余裕すらもないのか、ダイニングも廊下から丸見えの状態だった。
遮るものがない以上、勢いよく開けた扉を開けたことは失敗かと思えど、それでも男が姿を現さないことから、功を奏した。
いない。
ダイニングキッチンーーいや、浴室に行ったまま、消えた。
それが、どんな仕掛けなのか考える余裕もない。私のやるべきことは、男と反対の場所に行くこと。
浴室側に外なり、別の部屋なりに行ける通路でもあるのかもしれないが、その先にあの男がいるなら話は別だ。
正反対に向かえば、玄関だが、鍵がなくなっているということはない。かと言って、一階のどこかに隠れる気もない。
男は二階から来た。自分が今までいた場所(二階)に私はいないと思い込み、一階を探す男の裏をかく。
もっとも、これはご都合主義はおろか、なっても時間稼ぎにしかならないことだけど、少しでも男との距離を取りたかった。
これが、本音なんだろう。
二階という逃げ場がない袋小路に行ってでも、あの男から逃げたい。
ただ、その一心で、私は階段を上った。
手すりを使い、上を目指す。
いつ男が来るかと怯え、振り向きながら。