如何にして、コレに至るか
二階につくなりに見たのは、直線状の廊下に、扉が二つ。常套で考えるならば、どちらも何かしらの部屋であり、一階にはなかった男の自室がありそうだ。
あんなことをする男の自室なんて見たくはない。
されども、扉に何の部屋か書かれたプレートが貼ってあるわけでもないのでは、どちらが外れか当たりかも分からない。
手前の扉に向かう。
そもそも、私にとっての当たりがこの家にあるわけないかと考えていれば、廊下で黒いものを見つけた。
二つの部屋の中間ほどだろうか。
最初、虫かと思った。黒くて床にある物体ともなれば、そう思うが、動かないそれは別のものだと知る。
何だろうと近づく。
一歩、二歩、三歩。四ーー
「か、み、髪?」
不明の正体を見る。
髪だった。黒い髪。
抜け毛程度なら、床に落ちていても不自然じゃないのだけど、距離を詰めるまで、虫と見えた髪は、量が多かった。
ホラー映画で、排水口から髪の束が出る演出があるが、この黒髪は長さがなかった。
綺麗なまとまりの束ではなく、ごっそりと無造作に抜いたかのような黒髪。あの男が、自分で髪を抜いて、ここに捨てた?
考えたことに、有り得ないと自分で思う。
こんな量を抜くなんて痛いだろう。切ったにせよ、廊下に捨てる意味が分からない。
クセのない真っ直ぐな黒髪は、より気味悪く思えてーー
「黒髪……」
彼の、髪を思い出してしまった。
今まで一度も染めたことがないという、綺麗な黒髪。
「ゃ、いや、ちがう」
日本人の大半は黒髪なんだ。これが彼のと決めつけるのは早急過ぎる。
けれども、想像は想像を呼ぶ。
有り得ないなら、有りそうな想像をしてしまう。
宮本さんとあいつが、ここで揉み合いになり、その最中、あいつが、彼の髪をごっそりと抜くという想像を。殴り、蹴り、痛めつけ、それでは飽きたらず、それでは普通(つまらない)と、彼の髪を無理やり引き抜き、痛めつけ、また殴って。
「ちが、う」
想像をかき消す。
そうならないためにも、私はここから出て、あの男を警察に突き出さなければならないんだ。
首を振り、開け損ねた扉を開けた。