如何にして、コレに至るか
それが右の棚。次に真ん中。これも同じ。
最後の左の棚を引いた瞬間に“手応え”があると、指先から重みを知る。
「……!」
開けたことを後悔した。
中に入っていたのは、刃物。
一本や二本では数え切れない量が、まるでナイフやフォークと同等のように、無造作に入っていた。
身近な刃物は包丁しか分からない。
銃刀法違反に見ただけで当てはまる類のナイフは、軍事用のそれだ。
一際目立つ刃物。ーー緑の柄と、迷彩柄の皮の鞘をした一本を手に取る。
ぞわぞわと寒気立つ重みだった。
玩具がこんな重みを持っているわけがない。鞘を抜く。片刃がギザギザとノコギリみたくなっている。
慌てて戻そうとしたけど、『護身用』の文字が湧き出た。
「使えないよ、こんなの」
持っているだけで、手首が痛くなるし、何よりも、一突きで相手を殺せそうな代物は持っていていい物じゃない。
銃刀法違反云々前に、これを使って人を刺す気になれなかった。
戻そうとし、ふと、軍事用ナイフの下にあった刃物が目に入る。
チンピラが脅しの常套句に使いそうな折り畳み式のナイフ。
持つのは初めてだけど、柄から刃をスライドさせるぐらいは知っている。
茶の柄より出たのは小振りな物だ。これなら持ち歩けそう。
相手を刺すにしては心もとない一本だが、そもそも私が誰かを刺せるわけがない。あくまでも脅しに使うだけ。非力を強く見せるための道具に過ぎず、持っているだけで使うことはないだろう。
着ていた服。栗色のコートのポケットにそれを入れた。
「デートした時のままだ」
何気ないことだったので、気にしていなかったけど、着衣は宮本さんと出会った時のままだった。
室内でコートを着たままでいるのは違和感があるけど、脱ぐ気にもなれない。今は一月、外に出る目的がある以上、すぐにでも行けるよう着たままにすべきか。
「でも、足はどうにもならないか」
女のファッションは我慢だと、誰かが言っていた。その通りで、私は宮本さんとのデートの時はスカートを履いている。
今日は紅茶色のベロア素材のスカート。
黒のタイツは着用しているけど、寒さを凌ぐには適していない。現に、宮本さんと会っていた時は、足が冷え冷えだった。
上は白のブラウスで、着衣の乱れはない。
彼と別れた後、そのままここに運ばれて来たのだろうか。
棚以外にこれとした物はなく、手詰まり。
「別の場所に行けば」
この部屋では手詰まり。ならば、次の部屋に行かなければ突破口はない。