如何にして、コレに至るか
ーー
それは、いつかの、ベッド上での思い出。
ベッドの軋む音で目が覚め、私を抱く腕で言葉を発する。
「どうし、ましたか?」
起きるにしては論外の時間。
まだ続きをしたいのかなと、私もまた彼の体に手を添えた。
「怖く……なった」
触れた体が、僅かに震えていた。
体躯は立派な成人男性なのに、今の彼は幼子のように弱々しく見えてしまう。
「怖い夢でも見ましたか?」
「起きていても、怖い夢(想像)を見てしまう」
彼自身、今の自分が酷く幼いーー格好悪いと自覚したか、うっすらと自虐的に笑っていた。
「なんで、こんなに弱くなったんだか。想像が現実に直結するとは限らないのに、思うだけで泣きたくなるほど、弱くなった。今が最高に幸せだから、この瞬間(今)が過ぎてしまうのが怖い。永久的に続くと思っても、やっぱり、どこかで思うんだ。君と、離れ離れになってしまうんじゃないかって」
それが怖いと、彼は言う。
「私も、怖いですよ。だから、離れません」
「分かっている。分かっているけど、違うんだよ、三葉。世の中は、俺たち二人だけじゃないんだ」
今この瞬間、彼の部屋にいるのは私たちだけ。けれど、時が経てばーー朝になれば、各々の生活に戻らなければならない。私は大学、彼は会社。離れてしまうのは致し方がない。生活するとは、社会(数多)の一部になるということなのだから。その枠から外れて生きてはいけない。
「宝くじが三億当たれば、二人で隠居生活出来ますかね」
軽く笑われた。けど、的外れだったらしく、ハズレと返される。
「俺が言いたいのは、俺たちの関係が誰かに引き離されてしまうんじゃないかって、不安。世の男ーーいや、女でさえも、全て君のことを狙っている気がしてならない」
今度はこちらが笑う番だった。
ないないと、付け加えながら笑う。
「それ言うなら、宮本さんも逆ナンされそうな顔立ちじゃないですか」
「断るよ。無理やりでも付きまとうようなら、相手を刺せるし、俺の顔目的でハエが寄るなら、いっそ自分の顔を焼いてもいい」
「物騒な冗談は嫌いですよー。その理論でいくなら、私も顔を焼かなきゃならないじゃないですか」
「焼いても愛せるよ。それが三葉なら。三葉もそうだろ?」
「そうですけど」
「でも、痛いのはさせない。三葉を傷つけたくないのに、それやったら意味がないからね。だからーー」
唇が近づき、舌を出された。
当たり前のようにこちらも舌を出し、絡ませる。
唾液をすする。舌を吸われ、口腔を舐め回された。
口を離して、呼吸を再開する。
恋人たちの証明。互いが互いを好きだと、愛し合っていると実感出来る幸せな瞬間に、彼はまた泣きそうになっていた。