如何にして、コレに至るか
私もつい先ほど見てしまった男性。やっぱり、鏡餅みたいな背中と思っていたのか。見知らぬ人にそう思うのは、失礼でしかないのだけど。
背後から、椅子を引く重い音がした。
件の男性が、店を出るのだろう。
それに気づいた店員も、『ありがとうございました』と声かけをしている。
店の入り口までは一直線。カウンター席とテーブル席を区切るような通路を歩けば、必然的に私たちの横を通り過ぎる。
別に気にも止めてなかった。
彼の部屋に行ったら、何しようかなとそんなことばかり考えていた。
棚でも倒れたかのような音を上げて、転んだ人がいなければ。
流石に気にとめる。ほぼ、私の真横で転んだのだ。だるまなら自然と起き上がるけど、相手は人間。うつ伏せに倒れたまま、起きあがることはしない。
持ち物のバックからは、見たことある参考書や文房具が散らばっていた。
やっぱり、私と同じ大学の人。私の足元にまで黒色のボールペンが転がってきたものだから、とっさにそれを拾い、倒れている男性に近寄る。
大丈夫ですか?とかがみ、ペンを渡そうとし。
「え?宮本さん?」
その手を、痛いほどの力で握り、阻止したのは宮本さんだった。
「行くよ」
手から落ちたペンを再度拾う前に、強引に引っ張られる。顔を上げた男性と目があった。転んだ人も助けられない非常識な人間と思われただろうか。
それでも彼は、私を強引に連れ去った。
その入れ違いで店員さんが、私のやろうとしたことをしてくれる。
「おつりはいらないので、募金箱に入れておいて下さい」
300円ほどのブレンド二つには明らかに余る千円札をレジに置く彼は、立ち止まることなく出口を目指す。
呆気に取られているような店員でも、レジ横のチャリティー募金を手に取るあたり、彼の言うとおりにするのだろう。
ドアベルがやけに大きい音を立てた。後ろ髪を引かれる思いとなり、店を出る前に振り向く。
起き上がった男性。じっと、こちらを見ていた。睨むような目つきで。握り拳を作るかのように、私が拾えなかったペンを持ってーー
「三葉、行こう」
歩みを強いる彼の意図が分からない。
それでも、彼の意図に抗う気はなかった。
「どうしたんですか、いったい」
喫茶店近くの駐車場に停めてあった彼の車に乗り込む。エンジンをかけ、窓に降り積もった雪の膜をワイパーが落とす。