如何にして、コレに至るか
「あいつ、わざと三葉の前で転んだ」
雪が落ちる音によく似た低い声で、彼は言った。
「わざとって……」
「最近、あいつをよく見かける。最初は君とのデート。それから偶然かと思う程度、そこそこに。けど、俺の会社近くでも見るようになった。もっとも、見るのは会社近くのコンビニで立ち読みしている姿だから、それがあいつの日課だと気にも止めなかったけど。駄目だ、さっきのがあったんじゃ」
あいつは危険だと、その人物から離れるようにアクセルが強く踏まれる。
「三葉は、あいつを知っているのか?」
「えっと。大学で何回か見かけてます」
「同じ学生か」
舌打ちでも聞こえそうなほど、忌々しい響きだった。
「このまま、警察に行こう。あいつ、三葉に付きまとっている。その上で、君の恋人たる俺にも付きまとっているようだし」
極論過ぎる申し出には、流石に待ったをしてしまった。
「そ、そんな、考え過ぎですよ。同じ大学なんだから、顔を見るのは当然だし、宮本さんの思うとおりにコンビニで立ち読みが日課かもしれないし。それに、かなり目立つ体型だから、どうしても目が行って記憶に残るんじゃないんですか」
これが普通の体型で、普通の顔なら、さして気にも止めなかったはず。いくらすれ違っても、何回出会っても、『記憶にない』に留まる。通り過ぎる人の顔をいちいち覚えていられるほど、脳は利口に出来ていないだろう。
私の言葉に、煮え切らないものの、納得はしてくれたようで、車の向かう先が変わった。
「でも、あいつとは今後一切関わらないで。見かけても近付かず、距離を取るように」
了承すれば、不安は消えたのかいつもの彼に戻った。
運転の邪魔にならないように、左手を握る。
握り返すその手の強さは、私を愛してくれる表れだ。
こんなにも心配をし、想ってくれている。
世界一の幸せが、こんなにも近くにいてくれるんだと、私は浸るように目を閉じた。