噎せかえる程に甘いその香りは
……とはいえ前途多難には変わりない。
最近では殆ど同棲と言える頻度で仄は家に居る。
だが、彼女が俺の家に私物を置いて行く事は一切ない。
衣類は勿論、ハブラシでさえトラベル用という徹底ぶり。
そんな頑なさが恋人という錯覚に冷水をぶちかけ、俺に気持ちを伝えさせるのを思い留まらせた。
互いに慰め合うのが目的の関係で、俺が気持ちを伝えれば仄は重くなって離れて行くんじゃないだろうか……。
迂闊に気持ちを伝えられない事にモヤモヤするものの、一先ずは副社長への気持ちを完全にふっ切らせるのが重大だろう。
会社では相変わらず噂が流れていて、その実仄が副社長と遭い引きしているような素振りは無い。
とはいえ、仄は感情を押し隠すのが上手いからな…。
頻繁に会っている事は無いにしろ、メールなんかで連絡を取り合ったりしてるんだろうか…。
ああ、くそっ。
……彼氏の携帯を盗み見る女の気持ちがよく分かる。
居酒屋で麻人と別れて家へ向かった。
今日は仄も少し用事があると言っていたが、もう帰ってきてるかな。
気持ち足早に帰路を進んでいた俺は市街地屈指の高級ホテルの前でその足を止めた。
………………冗談だろ?
入り口付近で、植樹を照らす暖色の灯りに浮かび上がる男女の姿。
歩道から建物の間に広がるカーポートの所為で少し距離があるものの見間違える筈は無い。
停めてあるタクシーの傍らで会話をしていたのは紛れもなく副社長と
―――仄だった。
***
※2/20スミマセン。
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