噎せかえる程に甘いその香りは

彼を繋ぎとめるために私は毎日丁寧にほんの少しずつ魔法を掛け続けた。

コレが市販の物ではないと知ったのは割と早かった。

オリジナルで香水を作る香水専門店の物だったから。

店に行けば香水を作る事は出来るけれど、この香水のレシピを知らない私には同じ物は作れない。

同じ物を手に入れる為には蓮実さんにお願いしなきゃならないのだ。


「ところで仄、今日は一つ聞きたい事があったのだけど。」


そんな改まった前置きに顔を上げれば、蓮実さんはいつになく難しい顔をしていてちょっと戸惑う。


「仄…販促の長谷川葵と付き合ってるのか?」


その言葉にギクリと心臓が跳ねた。

蓮実さんとの関係同様、葵さんとの関係も人に言えないものだ。

細心の注意を払ってひた隠しに隠して来た筈なのに…何故?


「蓮実さん……調べたの?」

「俺は仄が心配なんだよ。」


悪びれもなくそう言いきった蓮実さんは険しい顔付きのまま言った。


「彼の事はそれなりに知っている。誠実で仕事も出来る良い男だと思う。だけど……彼は駄目だ。その理由は言わなくても分かるだろう?」


言い放たれた言葉にぐっと息を呑む。

言われなくても、分かる。

葵さんは未だに香澄さんを引きずっていて、誰とも恋愛なんかしない。

そんなの周知の沙汰で今更誰に言われなくても分かってる。


「彼に本気が無いのだとしたら仄は体よく弄ばれて―――」

「止めて。」


胸をヤスリで磨くようなその言葉を強めに遮った。


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