噎せかえる程に甘いその香りは

「彼は何も悪くないんです。悪いのは全部私で―――」

「仄。」


上ずる私の声を今度は蓮実さんが強めに遮った。

私を射抜く強い双眸も相変わらず。

私が強情なら、蓮実さんも負けずに強情な人。

見た目の柔和さに反して、自分の意志は絶対に折らない頑固者なんだから…。


「俺は仄の幸せを願ってるよ。例え俺の手で仄を幸せにしてやれない立場だって承知していても。だから彼は駄目だ。彼は君を幸せには出来ない。」


葵さんは私を幸せにはしてくれない。

絶望ばかりのその現実に私の胸はざっくり切りつけられて。


そこから溢れだす真っ黒な悲しみを抑えるように私は貰った香水を胸元で握りしめた。





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