噎せかえる程に甘いその香りは
そんな俺に仄は少し小首を傾げながら、ふふっと微笑む。
「今夜はご友人と呑みに行かれるって……葵さん、呑む時あまり食べないから。少しお腹空いてるんじゃないかと思って。」
「あ……ああ。そうだな。」
「じゃあ、お茶漬けでも用意しますから。座ってて下さい。」
「ん。……有難う。」
――――ヤメタ。
下手な事を言って仄に離れて行かれたらどうするんだ。
例え本当の恋人じゃなくても、今仄の一番近い所に居るのは俺なんだ。
深い深呼吸で気持ちを改め、俺はソファーへと足を向けた。
どくっと心臓が嫌な音を上げて軋んだ。
ソファーの脇に仄の鞄があって、口の開いたそこから覗いていたのは彼女が愛用している香水の瓶だった。
慌てて詰め込んだみたいに空の箱と共に。
その箱にまたドクンと鼓動が跳ねた。
…………これ、さっき副社長から受け取っていた物じゃないか?
遠目にしてハッキリは見てとれなかったけど、エントランスで確かに副社長からこのくらいの箱を受け渡されていた。
震える手でその香水の瓶を手に取った。
その瞬間、俺は目が覚めたみたいに全ての事を知った。