噎せかえる程に甘いその香りは
「…もう止めろって、俺言ったよな?」
「え?」
「副社長の事はもう諦めろって言ったよな?なのに何で会ったりしたんだ!」
俺の怒声に仄は一瞬にして顔を引きつらせた。
経緯はどうであれ、副社長と会った事を俺が知っているのは悟ったらしい。
「…っ、ちが、…違うんですっ…あれは……」
らしくもない程の動揺を露わに、なんとか取り繕おうとする仄に苛立ちが増した。
――――ガシャン!!!
「っ!」
悲痛な破壊音と、一瞬にして部屋に広がった甘い香り。
気が付いたら俺は握りしめていた物を壁に向かって力任せに投げつけていた。
息を呑んだ仄は次の瞬間弾かれたようにトレイをカウンターに置いて、香水の垂れ流れる壁に駆けた。
おろおろと飛散した瓶の欠片と壁を伝う香水を見て、戸惑いに満ちた視線を俺に向けた。
「なん、で……どうしてこんな事……」
「――――らない」
「え?」
「いらない。こんな物……もう」
要らない。