噎せかえる程に甘いその香りは
3*[f]fruity
【side 仄】
目覚めて私が目にした物は開けっぱなしたカーテンの向こうの白に滲んだ空。
隣で寝息を立てている人を起こさぬようにそっと起き上ったつもりだったのにその拍子に身体がずきっと痛み、胸まで痛くなった。
昨日は明け方近くまで葵さんに責め立てられた。
多分、私が寝ていたのはほんの束の間。
たまに意地悪い時もあるけれど葵さんは優しくて、あんなふうに乱暴に責め立てられたのは初めて。
初めて―――葵さんを怒らせた。
蓮実さんと会うなと言われていたにも関わらず、その忠告を破って会ったから。
『もう、いらない』
それはどう言う意味なの?
ぐっすり眠る葵さんを見詰めながら、その疑問を問い返すけれど答えは無くて。
不安を抱えながらそっとベッドを抜け出しリビングヘ向かった。
ギクリと心臓が跳ねて足が竦む。
リビングに充満する甘い香り。
香水が弾けた所に見えたのは私が会った事もない女性。
魅力的なアーモンドアイズ。
ふっくら熟した唇。
サラサラと流れる亜麻色の長い髪。
会った事は無いけれど写真で見た事がある。
―――香澄さん。