噎せかえる程に甘いその香りは
「何コレ……ぉぇっ!」
リビングに踏み込み麻人が餌付いた為、リビングは断念。
とすると寝室しかない訳だが、麻人が断固拒否。
俺も彼女の余韻が残っている寝室に友人を招き入れるのは抵抗感ありまくりだ。
それで玄関からリビングに続く短い上に暗い廊下に落ち着く事になった。
彼女に逃げられた上に、こんな場所で友人とクロワッサンを食べているこの現実……心折れる。
「で?何があったん。」
俺が果敢にもキッチンに踏み込んで入れて来たコーヒーと人気店のクロワッサンで場違いにも優雅なモーニングを取りながら、俺はこれまであえて説明しなかった彼女との関係をぽつぽつと話した。
彼女が片思いしている上で俺と慰め合う形で関係を始めた事。
彼女にとっての、そして俺にとっての―――香水の存在意義。
そして香水瓶を壊した昨日の経緯、諸々……
俺は、食べかけのパンを力なく降ろし深く溜息を吐いた。
「例え気持ちを伝えて無くてもさ、彼女の一番近くに居るのは俺だ……って安気になってたんだよな。だけど彼女の気持ちは最初の頃と全く変わってなくて、俺になんか少しも傾いて無かったんだ。」
今にして思えば俺は『恋人』という立場が欲しかった訳じゃないんだ。
気持ちを伝えて、幸運にも彼女が応えてくれたって、彼女の気持ちがあの男に残ってるなら意味がないんだ。
そんなのは嫌だ。
欲しいのは彼女の気持ち全て。
欠片もあの男に残さず、彼女の気持ち全部、俺は欲しいんだ。