噎せかえる程に甘いその香りは
パンを食べながら俺を眺めていた麻人は徐に口を開いた。
「なーんか葵、変わったな。」
はぁ?
や、今は俺の事じゃなくてさ、もうちょっと他に適切なアドバイスとかして欲しい。
麻人はゴクリとコーヒーを呑み下して続けた。
「いやいや、香澄ちゃんと付き合ってる時は葵が嫉妬とかすんの見た事なかったからさ。」
「それは……、別にする事もなかったし…」
「彼女が香澄ちゃんでか?そりゃふわふわ心変わりするような子じゃないけど、明らか人気者でモッテモテだったのに?」
「それは………」
言い差したきり俺は黙ってしまった。
確かに香澄は彼氏(俺)がいようがいまいがモテてたな。
殆どは気さくな友人関係だったけど、時折勘違いな野郎に言い寄られてたりする事もあって…
俺としては面白くなかったけど、あ~またかよってくらいで、嫉妬と言う程イラついたりはしなかった。
それは香澄に全くその気がなくて、安心して見ていられたから………か?
麻人はパンを口に放り込んでにやっと笑った。
「俺は今の葵嫌いじゃねーよ?なんというか必死なカンジ?」
俺はその言葉に項垂れる。
「初恋って訳でもあるまいに…。俺の方が彼女より俄然大人なのに…。必死って……。」
「イーじゃん別に。本気だから必死になんだろ?歳とかキャリアは関係ないね。」
その言葉に顔を上げれば、挑発的な悪戯っ子みたいな顔があって。
「無様でいいじゃん。この際だし、ちゃんと告ってとことん嫌われるまで追い縋ってみれば?」
実にシンプルで的確なアドバイスをくれた。