噎せかえる程に甘いその香りは
4*[f]fresh
【side 仄】
総務課からの帰り道、廊下を歩きながら私はそっと溜息を零した。
葵さんの部屋を飛び出してから二週間。
あれから葵さんとは会っていない。
あの日自分の部屋に戻った私はシャワーも後回しに布団にくるまり声を押し殺して泣き続けた。
その間にあった葵さんからの連絡は全て取らなかった。
取れなかった。
だってきっと『要らない』という言葉をはっきりと説明されてしまうだろうから。
いやだ。
聞きたくない。
葵さんの気持ちが私にないのだとしても傍にいられるのならば構わなかったのに。
月曜日。
今日こそ最後になるだろうと予測しながら憂鬱な気持ちで会社に行けば不運にも始業前に葵さんと出くわした。
身構える私に葵さんが声を掛けようとした矢先―――
「長谷川課長――――ッッ!!」
彼の部下が足音荒く駆けつけて捲し立てた。
どうやら彼の課でミスが発生したみたいだ。
葵さんは私を気にしつつも部下と共に足早に去ってしまった。