噎せかえる程に甘いその香りは

それから二週間の間、時折思い出したように彼からメールが入ってくるものの、いつ会おう、という明確な文言ではなかった。

悪い時には悪い事が重なるようで、この二週間の間に彼の課でまた別のトラブルが発生したらしい事を私は人伝に聞いた。

先延ばしになる最後通牒にホッとする半面、仕事に追われる葵さんの事が心配になる。

よっぽどじゃない限り人に無理を強いる人じゃない彼は、だからこそその分を自分で請け負ってしまうような人だから。

食事も睡眠も削って誰よりも仕事に奔走しているのだと思う。


大丈夫なんだろうか…


他部所だから仕事を手伝う事は不可能だけど、せめて食事やお風呂の支度とか、生活面で彼を支えられたらイイのに……。

そんな事を思って、息苦しさにぎゅっと唇を噛み締める。


してあげられる訳無いよね。

私はもう要らないって言われたんだから。


暗澹とした気持ちで廊下を歩いていた私は、何気に視線を上げて、ギクリと心臓を跳ね上げた。

向かいから部下と共に歩いてきたのは今まさに私が想っていた人だったから。

部下と書類を見ながら何か話をしていた葵さんの視線が何かに導かれるように持ちあがり、私に気付き目を見開いた。


葵さん…やっぱり少し痩せた?


疲れて見える彼に心配が湧いたけれど、公で声を掛ける訳にもいかず、目を伏せ他人行儀な会釈をする。

彼もまた部下の手前か私に声を掛ける事もなく、物言いたげな視線を残して擦れ違った。



…胸が痛い。


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