噎せかえる程に甘いその香りは
【side 葵】
間の悪い男ワーストワン。
と自嘲の一つでも零したくなる。
一刻も早くトラブルを挽回して仄に真っ向勝負を挑もうと思っていたのに、そんな時に限って別のトラブルに見舞われた。
そんな多忙の折を見て彼女にメールを入れてみるものの、全く以って音沙汰ナシ、だ。
俺の気持ちがまだ香澄にあると思っているだろう彼女にしてみたら、副社長と会っていた事に妬いて癇癪を起した俺なんて相当にウザイ存在だろう。
別の相手を想っているのはお互い様なのに何で自分だけが非難されなきゃいけないのか、と不満に思っても仕方ない。
だけど、違うんだ。
俺は君が好きなんだよ。
だからこっそり副社長に会ってた君に腹が立ったんだよ。
…なんて、伝えてもないのに彼女が理解出来る筈もないし。
伝えたからって、俺の勝手な嫉妬を彼女が受け入れなきゃいけない云われもない訳で…。
と、とにかく、一刻も早くこの間の事は謝って、ちゃんと気持ちを伝えて、話しあわないと。
そのためには何としてもトラブルをさっさと片付けないと!
取引先へ向かう所。
同行する田中と書類を見ながら廊下を歩いていた俺は前方の人の気配に顔を上げ、目を見開いた。