噎せかえる程に甘いその香りは
見ていた限りでは、縋ってるのはどちらかと言うと副社長の方で。
あの男っ、フィアンセが居る分際で仄に食い下がるとかどういう了見だ!
……てのはさて置き。
この間の事を思い出して俺は深く溜息を吐いて項垂れた。
あれでも彼女はちゃんと彼を割り切ろうとしていたのかもしれない。
それでも付き合ってたのだったら何かの理由で会う事だってなくはない。
俺が思うような邪な逢瀬じゃなくとも。
『違うんです、あれは…』
あの時彼女は否定しようとしてたのに、俺は何で聞き捨てたんだろう。
ただ嫉妬に目が眩んで、非もない彼女に苛立ちをぶつけてしまった。
今更ながらの罪悪感に胸が締め付けられる。
駄目だ、こんなの。
一刻も早く彼女と話をしなくちゃ。
自分に喝を入れて田中に追いつくように駆けだした。