噎せかえる程に甘いその香りは
――――なんてことだろう。
ロビーの窓際に設置された待ち合い用の応接セット。
ソファーに座る人を認めて私は愕然と足を止めてしまった。
ああ…、だけど逃げる訳にもいかない。
鉛の付いたような足でソファーにのろのろと近づく私を黒目勝ちの大きな瞳で見詰めるのは
――――菊池雛子さん。
どうしよう。
私はどうしたらいい?
促されて向かいのソファーに腰を下ろした私は俯き加減のまま膝の上に置いた手をぎゅっと握りしめた。
白くふっくらとした輪郭にくりっと大きな瞳。
亜麻色に柔らかくうねる長い髪。
まるでお人形のように愛らしい彼女は委縮する私を真っすぐに見詰めて静かに口を開いた。
「突然お呼び出ししてしまってごめんなさい。今日は貴女にこれを届けに来たんです。」
そう言って彼女がテーブルに置いた物に私の心臓がギクリを跳ねた。
―――香水
「ご存じかも知れませんが私、オリジナル香水を作るお店で働いてます。これは先日蓮君…蓮実さんに頼まれたものですけれど。以前私が作った香水を“知人”に譲った所大変気に入ってもらえてまた同じ物が欲しいって―――」
感情も挟まず淡々とそう言った彼女は、そこまで来て真っすぐに向けていた視線に険を籠らせた。
「その知人というのは貴女ですよね?水守仄さん。」