噎せかえる程に甘いその香りは
首を絞められたみたいに喉が詰まって、私は声も出せずたじろいだ。
彼女は私が副社長と噂になっている事を知っているんだ。
沈黙を肯定と取った彼女は途端に堰を切ったように続けた。
「どうして…どうしてですか。この香水を彼にプレゼントしたのは確かにノリでした。彼の名前の香料を見付けて。調合してみて女性向けの香りだと私も思いましたし、彼が譲ったとしても別に不満はありませんでしたし、何よりその誰かが気に入ってくれたと言うのであれば、作った私としてはとても嬉しい事です。」
ですがっ……そう言葉を詰まらせた彼女は今度はハッキリと詰るような眼で私を睨みつけた。
「ですが、それを付けるのが何故貴女なんですか!?私が蓮君の為に作った香水を、蓮君を想って作った香水を―――何故、よりにもよって貴女が付けるんですか!?」
跳ねあがった声音に、嫌な汗が滲む。
行き来の多いこの場所で先ほどから何事かと興味本位な視線が向けられている。
「あのっ…落ちついて下さい。とにかくこれ以上はここでは―――」
「彼が貴女と会っているのは薄々気付いてました。連絡を取り合っている事も。」
「あの、菊池さん…っ」
興奮気味の彼女に私の声は届かなくて。
周囲から向けられる好奇な視線に頭が真っ白になっていく。
どうしよう。
どうしたらいい――――?