噎せかえる程に甘いその香りは
「貴女は一体どうしたいんですか?私は彼と結婚します。中途半端な気持ちならもう彼に近付かないで―――」
「菊池さん。」
その時、静かだけど揺るがない声が上ずる彼女の言葉をぴしゃりと遮った。
前のめり立った彼女を押し留めるようにして間に割って入った人を見上げて、乱れていた心が無条件で落ちつく。
……葵さん。
突然の介入者に我を忘れていた彼女も悪い夢から覚めたみたいに目を見開く。
「ここは人の目があり過ぎます。一先ず場所を移しましょうか。」
端然と諭されて、彼女も状況を察したらしく途端に青褪めた。
「ご…ごめんなさい…私……」
「大丈夫ですから。さ、行きましょう。」
彼女を促しつつ、彼は私にも目混ぜで付いて来るようにと促す。
それに頷いて、私も強張ったままの身体を叱咤してなんとか立ち上がった。
静寂の会議室。
葵さんに促されて窓際の椅子に腰を下ろした菊池さんは、張りつめていた物がブッツリ切れてしまったかのようにぼんやりとした表情のまま身じろぎもない。
その重苦しい空気に、会議室の中ほどまで来た私もそれ以上足を進める事も椅子に腰かけるでもなく立ち尽くす。
「不幸中の幸い…なのかな。副社長が丁度会社に居て連絡付いたから、来てくれるそうだ。」
会議室の内線を使った葵さんが戻って来てそう言った。
果然、副社長は直ぐに来た。