噎せかえる程に甘いその香りは


「雛子。」


扉を開け放ち真っすぐに目を向けた彼女に足早に近づく。


「蓮…くん……」


飛び跳ねるように椅子から立ち上がった彼女は、青褪めた顔をぐしゃっと歪めて俯いた。


「…ごめんなさい…私…。蓮君の会社で……蓮君に迷惑かけるような事……」

「大丈夫だ。そんな事心配しなくていい。」


震える彼女を優しい瞳で見詰めて、安心させるようにその頭を撫でる。

その顔を見れば彼がどれほども彼女を愛しているのか分かる。

だからこそ…

私は居た堪れずきゅっと握った手に力を込めた。


その手がふわっと包まれる。


…どうして。


臆病な私は視線を向ける事は出来なかったけれど、私の手を覆った掌が大丈夫だよ、と言うように優しく力を込める。

困惑とトキメキが綯い交ぜになった複雑怪奇な心持。

副社長は彼女を宥めながら、申し訳なさそうな顔を私に向けて来た。


「仄も……巻き込んで済まなかったな。」

「い…え」

私に謝った副社長は続けて隣に視線を流した。


「君も連絡をくれて有難う、と一応礼は言っておくが。もう用は無いだろう?とっとと仕事に戻ったらどうだ。」


尖った視線を受けて葵さんも真っ向から睨み返す。


「随分な言い草ですね。私も当事者なので見届ける権利があると思いますが。」

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