噎せかえる程に甘いその香りは

彼女は自嘲気味に微笑んだ。


「私我儘なの。蓮君の気持ち全部欲しいの。例え恋人じゃないんだとしても…他の誰かを大切にする蓮君なんてヤなんだよ。」

「雛子…」


彼女を引き留めようと伸ばされた手は力なく下に降りた。


……どうして。


視線を床に落としたまま動かない副社長に、鉛を呑んだみたいにグッと喉が詰まる。


どうしてこの人はこの期に及んで私を優先させるの。

こんな時に…私との約束なんて破ってしまえばいいのに。


動かない副社長に菊池さんは諦めたように俯き、フワリと身を翻した。

視界で揺れたフレアスカートに胸の奥がぎゅっとする。


何故…愛し合っている二人が別れなきゃならないの?

どうして…

何故……







私の――――所為だ。


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