噎せかえる程に甘いその香りは

「お願いっ、待って下さいっ!!」


気が付いたら私は今まさに部屋から出ようとしている菊池さんの腕に飛びついていた。


「ごめんなさい。全部私が悪いんです。私の所為なんです。ちゃんと説明しますから…お願いです。聞いて下さい。」

「仄…」


菊池さんを力づくで引き留めながら、戸惑うような副社長に首を振る。


「もう、良いんです。だってこんなの可笑しい。私の所為で二人が別れるなんて…」


私の約束が真実を歪めて、私の存在が二人の関係を壊した。

彼は私との約束を破ってでも彼女を引き留めるべきだったのに。

それが出来ないほどに優しい人だから


―――だから私が約束を破る。




なんとか部屋に留まらせた菊池さん。

固唾を呑んで見守る葵さん。

戸惑い気味の蓮実さん。


三人を前に何度か息を継ぐ。

生涯口にはしないと思っていた言葉だけに何度も躊躇したけれど

私は覚悟を決めて言った。













「私は社長の……黒崎賢木さんの血を引いてるんです。」



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