噎せかえる程に甘いその香りは

俺は素直に驚いた。


…ごめん。

この仕事に対するクオリティーの高さから、黒髪をひっ詰めた黒ぶち眼鏡の委員長タイプを想像してた。

いや、会社でそんなキャラっぽい存在じゃないにしても、イイ具合にキャリアを積んだお局様とか…。

お茶出しをしてくれる『水守さん』は俺の想像より俄然若い。

―――そして


『いやぁ~、イイすよね水守さん。今時ない感じの清楚タイプってか。』


隣で部下がでれでれと鼻の下を伸ばすのも納得できる。

透けるように白い肌にふんわり柔らかい輪郭の顔立ち。

線が細くいかにもか弱い女の子と言った風情。

控え目で大人しそうな彼女に今時の若い娘らしい華美さはないけれど、どこか凛とした雰囲気がとても好ましい。

しかしそれ故、男からしてみれば気軽に声を掛け辛いタイプかもしれないな…。


『あ。でも水守さんが噂になってるのはそれだけではなくてですね―――』


そこで会議のメンバーが揃い、その話はそこで打ち切り。

その時は打ち切られた言葉の続きが多少気になったものの、もとよりあまり親しくもない女子社員の噂話だ。
そのまま、そんな会話毎すっかり忘れていた。

聞いたのはそれから随分時間が経ってから。

偶々、残業後にその部下と飯を食べに行く機会があって、不意にあの時の会話を思いだした俺は何の気なしに“あの言葉の続き”を聞いた。



『彼女、副社長とデキてるって噂ですよ。』



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