文学少女と甘い恋
貴重だとは思いながらも小心者なわたしが甘樫くんに手を伸ばせるわけもない。
でも、とちっぽけな勇気を振り絞ってわたしは甘樫くんの後ろの席に座った。
近いようで、遠いような微妙な距離。
わたしにはこれがふさわしい。
少し心臓の音が早いような気がする、と思いながらわたしは本を開いた。
次第に引き込まれていく本の世界。
いろいろな人の想いが文字となってわたしの中に流れ込んでくる。
ページをめくり、視線の先にあった一首。
まるで今のわたしを表したような歌だと少しだけおかしくなる。
「 忍ぶれど
色に出にけり
わが恋は
物や思うと
人の問うまで 」
訳は、と目を移すと、後ろから手が伸びてきて。
その文字を追うようにツゥ、と指先が動いた。
え、と思い体が固まる。
ふわり、とどこか甘い、柑橘系の香りが鼻をくすぐった。