ホワイトデー最終決戦
1.苦労性の傍観者

 涼しい風が入り込む道場で、俺は目の前の相手と対峙する。
緊張で張り詰めた空気感の中、竹刀を構えて礼をする。剣道は礼儀が大切だ。

試合時間は五分。
相手が打ってくる竹刀を自らの竹刀で何度か受け流し、相手の面を狙う。
隙が見えずに歯噛みしたタイミングで、さっと身をよけた相手が俺の小手をとらえた。


「一本!」


試合終了だ。


「くそっ」


思わず舌打ちしながら面を外すと、同じように面を外した克司がこちらを見てにやりと笑った。


「俺の勝ちだ。洋介、絶対面狙いで来ると思ったんだよな」

「うるせー」


勝ち誇った顔の克司を横目で睨みつける。

剣道に関しては動物のように勘の働く男、それが克司だ。

それをもうちょっと日常生活で活かせよとは思っても言えない。

克司は道着の袖で汗を拭くと、面や竹刀を持って道場の端へと下がった。
眉に掛かりそうな黒髪が、汗でキラキラ輝く。

まあ、顔はいい方だよな、克司は。いわゆる爽やか系だよ。

けど鈍感だろ。無神経だろ。
和歌はこいつのどこがそんなに良いって言うんだ。

俺は、道場の端に置いた自分のタオルをとって汗を拭いた。
どこから入ってくるのか隙間風が吹いていて、先程までかっかしていた体はあっという間に冷えてしまう。
目の下にさがってくる茶色の前髪がうっとうしくて、手で払った。

やがて、他の部員が試合を始める。
タオルを口元に当てながら、ふと考えた。


俺が和歌を好きだと思ったのは、いつだったんだろう。


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