ホワイトデー最終決戦


その時、イノシシでも闖入したかと思うような、重たいが高速な足音が近づいてくる。
俺は慌てて和歌から離れて、彼女も赤い顔でうつむいた。


「よーうーすーけー!!」

「げっ」


その声は、空気を読まない第一人者と言ってもいいくらい能天気な男のものだ。

しかも、花が咲いたかのような明るい調子で歌うように叫びながらやってくる。


「聞いてくれよ、洋介。さっきさ、春香がさ!」


教室の扉を確認もしないで開け放ち、道着を着崩した克司が満面の笑顔でやってきた。

ええい、この能天気馬鹿が。
大事なところで邪魔しやがって。

俺たちはお前らにこんなに協力してやってるのに、なんでお前は邪魔ばっかりするんだよ。


「あれ? 和歌もいたのか。悪い、邪魔した?」


俺の一睨みに、ようやく状況を察知した克司が、気まずそうな声をあげる。


「ち、違う。そんなんじゃない。わ、私、帰るね」


和歌は慌てたように自分の机からカバンを取り、俺の脇をすり抜けて行こうとした。


「ちょっ、和歌」


俺は咄嗟に彼女の腕を掴んでしまった。

さっきの答えが欲しい。
このタイミングを逃したら、もうあんな恥ずかしいこと聞けるもんか。

しかし彼女は顔を真っ赤にして、イヤイヤと身をよじった。


「ごめん。か、帰る。離して」

帰したくない。
離したくない。

しかし、空気を読まない克司が食い入るように見ている。
ここで返事を求めるのは、さすがに和歌が可哀相で。

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