ホワイトデー最終決戦
「え? うわっ」
「じっとしてろ」
「よ、洋介なの?」
見るな。
泣きたくなるなら見るなよ。
「ちょ、離してよ」
驚いた声の和歌は、必死に俺の手を外そうと力を込めて掴んでくる。
鼻先に触れる和歌の柔らかい髪。ほのかに香るシャンプーの匂いが、動悸を煽る。
「離してってば、洋介!」
「うわ、いてぇ」
「いったーい」
和歌は中々手を外さない俺にしびれを切らして、なんと頭を後ろにそらした。
当然、さりげなく髪の匂いを嗅いでいた俺の顎を和歌の後頭部が直撃し、何とも言えない痛みにお互いにうずくまって呻いた。
「お前っ、なんでそういう荒っぽい行動に出るんだよ」
「洋介が早く離さないから悪いんじゃない。うわーん、ジンジンする」
そう言う和歌は痛みの為か涙目になっている。
何やってんだ俺たち。
公園の入口で、顎と頭を抑えてうずくまって。
「ぷっ」
腹の底から笑いがこみあげてきて、我慢できなくなった。
「あははははは」
「笑い事じゃないよ洋介。私の頭割れそうだけど。血出たらどうしてくれんの」
「血なんてでてねぇよ」
俺が励ましてやろうって思ってたのに、結局和歌に笑わせられる。
一緒にいるだけでこんなに浮かれた気分になるのは、和歌だけだ。
「いつまで笑ってんのよ」
赤い顔で、頭を押さえながら和歌が立ちあがる。
俺はそんな彼女と向かい合い、ポケットから取り出した瓶を手渡す。
「やる」
「うわー、一杯。なに? あの辛子チョコのお返し? 変な味のものとか入ってないよね」
ちげぇよ。失礼だな。
それは俺の本気飴だ。