かさぶた




深呼吸を繰り返し。

指先が小刻みに震えているのに気がついて、握り締める。



私たちの立てる声や音しか響いていない静かな教室の中。

どくどく。

やけに大きな心臓の音を押しこめて、



「私、実は────」



ガタン。



音がしたのは、彼の机の上からで。

ばっと立ち上がった彼は音の原因──スマホに手を伸ばした。



「先輩だ!」



キラキラとした瞳を向けられて、そしてちょっと待ってねと言われる。



「もしもし、先輩⁈
先生との話終わった⁈」



……なんて、嬉しそうなんだろう。



今までに見たことのない、姿。

誰と話している時も、こんなに光がこぼれ落ちるような表情はしていなかった。



いつも以上に眩しい彼に声を失う。



「じゃあすぐ行くね!
……なんでだよ、そりゃ急ぐよー。
だっておれ、先輩のこと大好きだもん!」



まるで、忠犬。

愛しい人のために動いて、生きて、それが幸せで。



自分で浮かべた言葉にはっとする。



……幸せ、なのね。






< 11 / 40 >

この作品をシェア

pagetop