かさぶた
深呼吸を繰り返し。
指先が小刻みに震えているのに気がついて、握り締める。
私たちの立てる声や音しか響いていない静かな教室の中。
どくどく。
やけに大きな心臓の音を押しこめて、
「私、実は────」
ガタン。
音がしたのは、彼の机の上からで。
ばっと立ち上がった彼は音の原因──スマホに手を伸ばした。
「先輩だ!」
キラキラとした瞳を向けられて、そしてちょっと待ってねと言われる。
「もしもし、先輩⁈
先生との話終わった⁈」
……なんて、嬉しそうなんだろう。
今までに見たことのない、姿。
誰と話している時も、こんなに光がこぼれ落ちるような表情はしていなかった。
いつも以上に眩しい彼に声を失う。
「じゃあすぐ行くね!
……なんでだよ、そりゃ急ぐよー。
だっておれ、先輩のこと大好きだもん!」
まるで、忠犬。
愛しい人のために動いて、生きて、それが幸せで。
自分で浮かべた言葉にはっとする。
……幸せ、なのね。