かさぶた




「違うわ。付き合ってなんかない」



かすかに微笑んで、そして切なげな表情。



「わたしが好きになったのは家庭教師の先生よ」



予想外な言葉に目を見開いた。



「受験のために、家庭教師の先生に来てもらってて。
それでわたし、いつの間にか好きになってたのよ」




悩んだように髪をかき上げる志乃さん。

さっきから黙りこくったままの岡村くんの表情が見られない。



「京介はいつも、わたしのことを大人っぽいって言ってくれてたわよね」

「うん」

「違うのよ。
わたし、本当はもっと子どもなの」



どういうこと? と岡村くんが首を傾げた。



「受験生だからって京介に会えないの、さみしかった」

「っ、」

「でも、会ったら勉強なんて手につかないのもわかってた」



なんて、……なんて悲しい。



ちゃんと彼女は岡村くんを好きだったんだということがわかって、胸が痛んだ。



「大人っぽい自分でいたいから素直になれなくて、人前でなんて泣けなくて……」

「……」

「でも、先生の前では涙をこぼすことができた。弱音を吐くことができた。
本当の自分で、いられたの」






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