TRIGGER!2
「あの人・・・時々、消えるの」
「え?」


 意味が理解できずに、風間は聞き返す。
 少しだけ間を置いて、美和は顔を上げる。


「ねぇ隼人、もうすぐお店が終わるでしょ? この後、付き合ってくれない?」
「それは・・・構いませんが」


 じゃあ決まりね、と、美和は店から近い小さなマンションの入り口で待ち合わせの約束をして、本日二回目のショータイムに出る為に楽屋の方に姿を消した。
 そんな彼女を見送って、風間はタバコを取り出すと、お気に入りの金色のジッポライターで火を点ける。
 ブランデーを片手に美和の歌声を堪能した後、風間は“Agua azul”を出た。



☆  ☆  ☆



 待ち合わせの時間よりも少し早めにマンションの入り口に着いた風間。
 ここら辺一帯は、この街で働く人間が住むマンションやアパートが密集していて、まだ深夜過ぎのこの時間、人通りはあまりない。
 みんなまだ仕事中なのだ。
 夜風に吹かれながら風間がタバコをくわえた時、向こうから小走りに近づいて来る美和に気付く。


「隼人!」


 息を切らせて目の前に立つ美和は、さっきのステージで着ていた真っ赤なドレスに白いストールを羽織ったままだ。
 そんな姿を見て、風間は苦笑して。


「寒くないですか? 着替えて来れば良かったのに」
「だって、隼人が待ってると思って・・・少し、遅くなっちゃったから」
「そんなに心配しなくても、ちゃんと待ってますよ」


 言いながらタバコに火を点けようとした風間のジッポライターを、美和はそっと取り上げて、火を灯す。


「はい、どうぞ」


 ジッポの火に照らされてにっこりと笑って言う美和に、一瞬見とれて。
 目一杯平静を装いながら、風間はそっとタバコを近づけた。


「それで、ここに何があるんですか?」


 三階建ての、古いマンション。
 明かりが点いてない部屋が殆どだ。


「・・・ここはね、わたしが住んでいるマンションなの」
「・・・は?」


 思わぬ美和の発言に、風間は危うくタバコを落としそうになる。
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