TRIGGER!2
「美和さんの部屋って・・・」
「あ。また“さん”付けたわね? ちゃんと美和って呼んでくれるまで、このライターは没収」
「は? いやそれは結構気に入ってて」


 しどろもどろになっている風間を置いて、美和はマンションの階段を上がって行く。
 慌ててそれを追い掛ける風間。
 そして、三階にある一室のドアを開けると、美和は振り返った。


「どうぞ、入って」


 自分の部屋なのに、何故か美和は少し緊張した表情を浮かべていた。
 普通、仕事から自分の家に戻ったらほっとするものじゃないのか。
 風間は少し眉をひそめながら、部屋に入っていく美和の後を追う。
 部屋の中は綺麗に片づけられていて、見た目は至ってシンプルなものだった。
 いや、あまり観察していると変な男に思われてしまうかも知れない。


「ふふふ。そんなに直立不動にならなくても・・・」
「あのですね。いくら何でも、こんな深夜に女性の部屋を訪れるなんて」
「いいの。だって、ここに来たのはそんな不純な動機じゃないでしょ?」


 そうだった、と、風間は少し咳払いをして。


「それで、何か相談事が?」
「そうね」


 美和は言って、風間の手を取るとベランダに続く窓際に移動した。


「とても、信じられない事なの。だけど、あの人は間違いなく向こう側にいるの。だってーー」


 美和の身体が、小刻みに震えていた。
 尋常ではない位、怯えている。
 それに、美和の言っている言葉の意味がまるで理解できない。


「向こう側って?」
「この窓の向こう側よ・・・でもあっちは」
「大丈夫ですよ。一緒に行きましょう」
「隼人?」


 美和は顔を上げた。
 風間はその両肩に手を置いて笑う。


「居なくなった彼氏が心配なんですよね? だったら行きましょう、私も近くまで行きますから。どこにいるんですか?」
「あの、ね。そこの窓から・・・」
「分かりました」


 風間は目の前にある窓を開け、ベランダに移動した。
 だがその途端に、全身に猛烈な痛みが走る。


「っ!?」


 思わずベランダの手摺りにしがみつき、その拍子に下の通りが視界に入った。
 風間は目を見張る。
 映画さながらの銃撃戦が、目の前に展開されていた。


「なっ・・・!?」



 有り得ない。
 たった今までここは、人通りのない路地だった筈。


「隼人っ! はや・・・と・・・っ!!」


 美和が、慌てた様子でベランダに出て来た。


「美和!」


 倒れ込む美和の身体を、風間は支える。
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