TRIGGER!2
 あの激痛を、美和も感じた筈だ。
 そう思うと、身体中の血の気が引くようだった。
 だが、しばらく動かなかった美和は、不意に顔を上げると、イタズラっぽい笑顔を浮かべて。


「今、ちゃんと呼んだね、隼人」
「大丈夫ですか!?」
「平気よ。それよりこれ」


 美和が手に持っていたのは、風間の靴だ。
 それを見て、ため息をつく。


「・・・そのために?」


 こんな苦痛を味わって。


「違うわ。ここはね、もう別の場所なのよ」


 風間はもう一度、ベランダから下を覗く。
 見間違いではなく、ガラの悪い男たちの怒号と銃声が錯綜している。
 確かに、ここが別の世界でもなければ、こんな光景を目の当たりにするなど有り得ない。
 だからさっき美和は『向こう側』と言ったのか。
 確かにこれは、口では説明しにくい。
 美和が探している男というのは、こんな場所に居るのというか。


「で、どこにいるんですか?」
「多分、こっち側のわたしの店に」
「良かったですよ」


 風間の言葉に、美和は不思議そうに首を傾げた。


「私が来て良かったです、あなたをこんな場所で1人で歩かせられない」
「隼人・・・」


 銃撃戦は少しずつ場所を変え、ここから遠ざかっている。
 幸い、美和の店“Agua azul”とは逆の方向だ。


「行きましょう」


 この部屋は角部屋で、ベランダの柵を乗り越えればすぐに非常階段に出られる。
 風間は美和から靴を受け取ると、その柵を飛び越えた。


「さぁ」


 美和の手を取り、その身体をこっちに引き寄せる。


「あーあ。少し後悔」
「何がです?」


 2人は非常階段を降りていく。


「もっと動きやすい服に着替えて来れば良かった」
「そうですね。でも似合ってますよ、その赤いドレス」


 クスクス笑う風間。
 それにね、と、美和は言う。


「ーー隼人が良かった」
「え?」


 あまりに小さな声だったから聞き返すが、美和は黙っていた。
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