TRIGGER!2
☆  ☆  ☆



 こっち側は、驚く事ばかりだった。
 街の風景はそのままなのに、繁華街の中心部に向かうに連れて増えていく通行人は、まるでこっちに気付かない。
 それどころか、酔っ払いがフラフラと歩いてこっちに倒れ込んで来た時。


「うわっ!?」


 ぶつかる、と思ったが、その男は自分の身体を『すり抜けた』。
 これが一番、気持ち悪い。


「何なんだ」


 上がる息を整えながら、風間は呟いた。
 だがここまで来る短い間に、確信出来た事がいくつかある。
 物陰からいきなり飛び出てきた男。
 風間は美和を後ろ手に庇い、その男の腕を掴むと、持っていたナイフを叩き落とす。


「警察の組織能力も威厳も、ここでは通用しないという事ですね」


 すり抜ける幻の人間とは違い、この男は実体がある。
 そして、ここで実体のある連中というのはことごとく、無法者だ。
 こんな事なら、拳銃の1つも持ってくれば良かったと、風間は思った。


『銃? あぁ、普段でも持ってていいぞー。お前は特に絡まれやすい顔してっからなぁ』


 この街に来てから直属の上司である高田という男は、豪快に笑いながらそんな事を言っていたが。
 あの時は、こんな上司が警察組織にいること自体、信じられなかった。


「信用してみるものですね、この街のルールを知っている人間は」


 ひとりごちて、風間はため息をつく。
 “Agua azul”に到着すると、店の電気は消えていて、真っ暗だった。
 どうやら時間の流れは、この世界でも同一らしい。


「隼人」


 店の入り口のドアに近づこうとした風間に、美和は声をかける。


「何ですか?」
「ありがとう、もう、ここでいいわ」
「・・・・・」


 風間は黙ったまま、美和を見つめる。
 そんな風間から視線を逸らすと、美和はもう一度、言った。


「ここにきっと、あの人がいるの。だから」


 その表情は決して嬉しそうではなく、むしろ苦痛に満ちていた。
 その顔を見なくても、美和が付き合っている彼氏というのが悪事に関わっていると言う事など、簡単に想像できる。
 彼女はそれを、自分には知られたくないのだ。
 曲がりなりにも自分は刑事だ。
 ここまで来てなお、美和は『あの人』の事を守ろうとしている。
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