TRIGGER!2
「あなたが私を頼ってくれたのは、他に適任者が居なかったからですね」


 美和は俯いたまま、黙っていた。
 ここまでは、頼ってくれたが。
 美和にとってここからはきっと、自分が踏み入っていい領域ではないのだ。


「ーー分かりました。帰りは、大丈夫ですね?」


 黙っている美和を残して、風間は店を離れようとする。
 その手を取って、美和は何かを握らせた。
 見ると、それは小さな袋に入った、何かの錠剤のようだった。


「明日も、店に来てくれる?」
「明日は・・・」


 分かりません、と言おうとしたのだが。


「これ、飲み忘れちゃいけない薬なの。わたし忘れっぽいから・・・明日、必ず持ってきて」
「いやそれは」


 約束する事が出来ない。
 だから返そうと思ったのだが、美和は店の中に消えた。
 一瞬、刑事としての意識が湧き上がって来た。
 この中で行われている事は、間違いなく違法な行為だ。
 美和がそこに関わるのも嫌だったし、違法行為は許せるものではない。


『経験もないお前に、何が分かる?』
『生意気なんだよ。新人は上司の言うとおりに仕事してればいいんだ』


 巨大な組織の中では、どんな正義感も学歴も、まるで意味を成さなかった。
 美和が今、自分を拒絶している以上ーーここで自分に出来る事は、何もない。
 組織に埋もれて、何にも立ち向かう事が出来なかった自分。
 この街に流れて来ても、結果、同じだ。
 風間はゆっくりと踵を返すと、店を背にして歩き出す。


「重くねぇか?」


 店を少し離れたところで、いきなり声を掛けられた。
 顔を上げると、そこにはこの街では知らない人間は居ないと言われている程の有名人が立っている。


「峯口さん、ですね?」


 この男の周りにはいつも黒い噂が絶えない。
 だがこの街を取り仕切るとまで言われているこの男と警察は、何処か協定を結んでいるような所もあって、事実上野放しにされている。


「重い、とは?」
「その薬、だよ」
「意味がーー分かりませんよ」


 ただでさえ、こんな訳の分からない場所に来ているのだ。
 それにどうしてこの男がここにいるのか。
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