TRIGGER!2
 峯口は笑って。


「まぁいい。帰るなら、いい場所を教えてやるが」


 そうだ。
 何も考えずにここまで来てしまったが、帰りはどうすればいいんだ?
 普通に考えたら、ここに来た時に違和感を感じた美和の部屋のベランダの窓を通ればいいのだろうが。
 家主の居ない部屋を勝手に通るのは気が引けた。


「もし知っているなら、教えて頂けますか」
「あぁ。その薬、渡してくれたらな」


 思いがけない峯口の言葉に、風間は手の中の薬を見つめる。
 頭の中に警戒心が芽生えてきた。


「ダメですね。これは明日、彼女に返さなくちゃならないんです」
「くぅぅっ、変な所で真面目なんだからぁ」


 峯口はひとしきり頭をかきむしった後、真顔で風間を見つめた。


「それは美和が命懸けで手に入れたブツだ。テメェなんかにゃ荷が重い」
「なっ・・・」


 風間の心臓が、ドキンと脈打った。
 スーツの内側から峯口が取り出したのは、一丁の拳銃だ。


「簡単な選択だ」


 睨むように風間を見据えながら、峯口は言う。


「それを渡すか、ここで終わるか、だ」


 言いながら、峯口は銃を風間に向けた。
 だが風間は、その事をまるで気にしない様子で、峯口の肩を掴む。


「命懸けって・・・美和が、どうしたんですか!?」
「おっお前なぁ、自分の状況が」
「美和が! どうしたんだよ!! 言え!!」


 風間は峯口を激しく揺さぶる。


「分かった! 分かったから手ェ離せ!」


 銃が暴発したらどーすんだ、と、峯口は風間の両手を無理やり突き放して。
 息を整えてから、峯口はタバコを取り出して口にくわえる。


「ここにゃ悪いヤツらが沢山いてな、俺は今夜こっちでデカい取り引きがあるってのを聞いて来てみたんだがな」


 本当に、悪いヤツらだらけだ。
 ここに来るまでの短い間に、風間は嫌という程体感している。
 峯口が言うデカい取り引きというのは、もしかしてこの薬の事なのだろうか。


「この薬は・・・」
「それは営利を貪る為に世の中に軽々しく流れていい薬じゃねぇんだよ。美和はそれを知って、止めようとしたんだ」


 煙を吐き出しながら、峯口は言った。


「どうしてあなたが、美和の事を」
「可愛い姪っ子の心配をするのが優しいオジサマの務めだろうが」


 美和が、事実上この街を取り仕切るとまで言われている峯口の姪っ子ーー。
 そんな事、今まで聞いた事がなかった。
 いや、聞こうとすらしなかった。
 一度もーー!
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