TRIGGER!2
「これで分かっただろ。帰り道はな、“AGORA”っつう店があるビルの屋上だ。上がる時は非常階段を使えよ。じゃ、その薬こっちに渡してーー」
「ダメです」
「・・・は?」
「まだ帰らないと言ったんだ。俺は何も、美和に聞いてない。それに一度も、ちゃんと話すらしていなかった」
「何言ってんだ、そんな事どうでもいいからさっさと薬ーーっておい!!」


 峯口が言い終わらないうちに、風間は店に向かって走り出していた。
 だが入り口に辿り着く直前に、追い掛けて来た峯口に襟首を掴まれる。


「何するんだ!!」
「人の話は最後まで聞くもんだ。武器の1つも持たないで飛び込んだら、美和よりお前が先にあの世行きだぞ」
「縁起の悪い事を言うな。俺も彼女も、死んだりしない」
「ほれ」


 峯口は懐から銃を取り出し、風間に手渡す。
 そして自らも銃を構え。


「ほんっっとに偶然なんだがな、俺もこれからここに乗り込もうと思ってたんだよ。良かったなぁ、同士がいて」
「峯口さん・・・」
「俺のバカ息子が今頃、別の取り引き現場を押さえている筈だ。そこにはドアがある。“AGORA”のマンションよりもそっちが近い。もし切羽詰まったら、そこを使え」


 峯口が言う製造元というのは、この店から二百メートル程離れた場所にある、今は営業していないテナントビル最上階の一室だった。
 だがな、と峯口は続ける。


「あそこは安定してない。早くてあと30分、それを超えたら、どんなに敵が多かろうが距離が遠かろうが、“AGORA”のビルを使えよ」


 もしも、峯口の言う敵が多人数だったら。
 こっちは2人。
 美和を連れて動くとなれば、元の世界に戻る場所というのは近い方がより危険が少なくなる。


「分かりました。お借りします」


 言いながら風間は、銃のセフティーロックを外す。


「手慣れてんじゃねぇか」
「知識はあります。訓練もこなしました」
「結構。入ったらお前はすぐに美和を連れてここから出ろ。後は俺に任せておけ」
「分かりました」
「お前、名前は?」
「風間です。風間隼人」
「あぁお前か、高田のじいさんとこに来た面白ェ新米刑事っつうのは」
「課長からそんな風に言われているなんて、心外です」


 仏頂面で答える風間に、峯口は笑って。


「じゃ、行くとしますかね」


 立ち上がると、峯口は“Agua azul”の入り口のドアを勢い良く開けた。
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