TRIGGER!2
 確かに、ついて来ると言い張ったのは自分だが。


「なぁ隼人、クマ出来てねぇか、あたし」
「これでもかというくらい、ひどい顔してますよ」
「なんだとぉ!?」
「ほら、見えて来ましたよ」


 顔を向けた方には、五階ほどある建物の屋上にでかでかと『佐久間心療内科クリニック』と書かれた看板が掲げてある。
 てっきり小さな個人医院だと思っていたのだが、なかなか大きな建物だ。


「四階の人の報告によると、あの建物の裏庭に面した二階の窓が“ドア”だそうです」
「ふうん」


 そんな会話をしているうちにも、だんだん建物に近づいている。
 医院の裏側に目をやると、裏庭だと思しき場所には、まるで小さな森のように木々が茂っていた。
 大都会ほどではないが、この国で五本の指にも入る大きな繁華街を抱え、その周りを取り囲むようにショッピング街、そして駅に向かうにつれてオフィス街と、この界隈はそれなりに都会だ。
 駅にほど近いこの場所でこれだけの森があると、かえって違和感がある。
 今日は医院も休みらしく、建物には人影はない。
 この世界は、物質は現実世界そのままなのだ。
 生き物だけが、お互いにまやかしになる。
 もしここで自分達と同じ生身の人間に出会ったら、それはかなりの確率で敵だ。
 悲しいかな、ここは善良な市民には殆ど知られていない世界。


「取り敢えず、裏側に回りましょう」


 鍵がかかっているため、建物内部からドアを確認することを諦めて、風間は歩き出す。
 2人は木が生い茂る裏庭に移動した。


「つか・・・」


 腰に手を当てて、彩香は建物の二階を見上げた。
 裏側は平面で、二階には確かに窓があるのだが・・・。


「あんなのどーやって確認するんだよ」
「ですね」


 想定外でした、と、風間は肩をすくめる。
 だがその時。
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