TRIGGER!2
 もしそれが本当なら、彩香が『スターダスト』に2日連続で行ったのに覚えられていなかった事、そして四階の住人が変装した美和がステージに立った事を佐武が覚えていなかったというのも、納得がいく。
 ーーだが。


「あたし・・・スターダストでウイスキー飲んだよな」


 その後の体調が良くなかった事を思い出しながら、彩香はぽつりと呟いた。
 記憶の錯綜。
 思い出したくない事。
 あの時『スターダスト』を出てから、今の彩香としての記憶が薄れて行く気がした。
 その瞬間漠然と感じたのは、前の記憶。
 この街に来る前のーー。


「大丈夫ですか?」


 風間が彩香の肩に手を置き、心配そうに顔をのぞき込む。
 隣でジョージも、訝しげな視線をこっちに投げかけている。


「お前やっぱり・・・体調悪いのはそのせいか?」
「・・・・・」
「“AYA”で倒れた時もお前、様子がおかしかったよな?」


 ジョージの質問に彩香は、何も答えられなかった。
 風間は初めて聞く事実に、少し険しい表情を浮かべている。
 詰まりそうになる息を無理やり吐き出して、身体の震えを止めようと、きつく自分の両肩を抱いて。
 ーー彩香?
 それは、峯口が便宜上付けた名前だ。
 じゃあ、彩香が彩香じゃなかった時は一体『誰』だったのだ?


「・・・・・・っ!!」


 彩香は風間の手を振り払い、ベランダに飛び出した。
 手すりを両手で掴み、ハァハァと呼吸を荒くして、ポケットに入っていた小さな錠剤を取り出し。


「彩香!」
「彩香さん!」


 ジョージと風間も、彩香を追ってベランダに出て来る。
 薬を飲もうとする彩香の腕を、ジョージが掴んで眉をひそめて言った。


「何だよそれは」
「頭痛薬だよ。医者から貰ったんだ」
「医者って・・・水島先生ですか?」


 風間の質問に頷いて、彩香は薬を口に運ぼうとする。
 だが、風間は薬を取り上げた。


「何すんだよ!」
「水島先生から頂いた薬なら間違いないとは思いますが・・・彼女はそそっかしいので、一応確認してみます。それに彩香さん、今のあなたの症状は頭痛なんかじゃありませんね」


 そう言われて、彩香は一瞬驚いたような表情を見せて、ヘナヘナとその場にうずくまった。。
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